”えっ!母の口座解約できないんですか!?” 成年後見が利用される場面1
成年後見制度って聞いて事ありますか?まだまだ聞いたことがある人は少ないのではないでしょうか。
まずは、どういうケースで利用されるのか?がわかると理解しやすいと思います。
そこで、典型的なケースを紹介し、なぜ成年後見制度を知っておくと便利なのか?を紹介したいと思います。
今日はその1回目で、定期預金の解約の場面をご紹介いたします。
ケース1 定期預金の解約ができない!
大田区中馬込在住の中村佳子さん60歳は、同居する母幸子さん85歳の認知症が進行してきたことから(要介護2)、有料老人ホームへの入所を検討しています。
施設への入所には一時金として相当程度の費用がかかることから、佳子さんは母幸子さん名義の定期預金を解約して一時金に当てようと思い、銀行窓口に相談に行きました。
ところが、本人確認ができないと解約・払戻には応じられないと言われてしまいました。
しかし、母幸子さんを窓口に連れてくるのも一苦労、連れて来れたとしても本人がしっかり解約の意思表示ができるとも思えません。お金が下ろせないとなると施設への入所はできません。
困っていると銀行窓口の担当者は「成年後見制度を利用してしてみてはいかがでしょうか?」と助言してくれました。佳子さんが母幸子さんの成年後見人になることで定期預金の解約・払戻に応じてくれるというのです。
なんででしょうか???
なぜ銀行は定期預金の解約に応じないのでしょうか?
安易に解約に応じた場合に大きな不都合があるからです。
例えば、後に母幸子さんが死亡した場合、他の推定相続人から、「何で本人確認もせずに解約・払戻に応じたんだ。施設入所の一時金のためというのは嘘で借金返済に使用してしまっているぞ。どうしてくれんだ。」と言われてしまったら大変です。
また、本人が窓口に来た場合であっても、「母は認知症で意思表示ができたとは思えない。その解約は無効だ。払戻した母の現金が消えているぞ。その原因の一つは無効な解約に応じた銀行にある。賠償してくれ。」なんて言われても困ります。
このような自体になることを事前に避けるためにも、本人確認手続き、意思能力の確認は銀行にとって重要な行為なのです。
成年後見制度を利用すると、なぜ銀行は解約に応じて良いのか?
成年後見制度とは、ある人(以下「本人」といいます。)の判断能力が精神上の障害により不十分な場合(認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等)に、本人を法律的に保護し、支えるための制度です。
判断能力とは、売買や贈与等をする際に,その行為が自分に有利なのか不利なのか,適正か不適正か等を考えるのに必要な精神能力のことをいいます。
このケースでは、定期預金を解約する行為が自分にとって適切な行為かを考えられる能力のことです。この判断能力がない場合に本人を保護するために用意されたものが成年後見制度です。
成年後見制度を利用して成年後見人に就任すると(成年後見制度の種類については別の機会に説明します)、成年後見人には法律上、広範な代理権と取消権が付与されます。
したがって、成年後見人は本人に代わって様々な契約を結ぶなどして本人が日常生活に困らないよう十分に配慮することができます(身上配慮「義務」でもあります)。本人にとっては行為能力が拡張されたことになりますね。相手方の銀行にとっても法定代理人が行っている以上、その効果は本人に有効に帰属するので、安心して取引に入れます。
以上のことから、判断能力がないため契約行為(定期預金の解約も契約行為になります)をする行為能力のない者(これを「行為能力制限者」といいます。)でも、成年後見人が就任することで、この成年後見人に法定代理権が付与され、成年後見人が本人に代わり定期預金の解約を有効に行うことができることになります。
銀行も安心して解約行為に応じられるわけです。
いかがでしたでしょうか?
成年後見制度が利用される端緒って意外と身近にあるようです。
私の父母はあと何年かで後期高齢者となります(75歳ですね)。
後期高齢者になると認知症の割合は一気に増えるそうです。
私と同じ年代の方にとっては、実は成年後見制度は案外身近なものかもしれませんね。
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